今夏のうなぎ

真夏の太陽が、大きく傾きながらも今日最後のパワーでぎらぎらと照っていました。夕方5時、淡水魚独特の土のにおいがぷんと香る・・・うな重と肝吸いをのせた出前のかごを受け取ると、懐かしい夏のにおいがしました。

入院中の母が初めての外出で数時間だけ家に帰りました。母はきっとうなぎが食べたいというのではないかと思っていました。母が育った上野は大きなうなぎ屋さんが多いので、母方の親戚が集まる日は、何で集まるのであれ、いつもうなぎをとりました。

本郷にある母の小さな実家で、何十人も集まって、うなぎを食べました。小さな仏壇があった二階の座敷一杯に机を並べて、窓からはやはり土のにおいがしました。路地に打たれた水が再び空へのぼっていくにおいが。

明るい夏の夕方に、母とふたりでうなぎを食べました。トランキライザーのおかげで、母はこのところ日に日に穏やかになっています。そこで主治医は外出をすすめてきました。残された時間は限られているのだから、と。

何をしていいのかわからなかったのですが、ただ、家の静かな居間にいていつものように洗濯物がひるがえっているのを見て、お茶入れて、何となく思い出に包まれるだけで十分でした。

うな重のお箸を置いてすぐ車に乗り込み、夕焼け雲を見ながら高尾の奥へ。病院は高尾にあります。「おかえりなさい」と優しいナースマンが迎えてくれました。 2008/08/03