新しい本の取材のスタートです。
長崎大学の「子ども遺伝講座」をお訪ねしました。長崎大学保健学科では、小児科の松本正先生、助産師の宮原春美教授と認定遺伝カウンセラーでもある佐々木規子さん、小児科看護のプロ森藤香奈子さんの四人組が米国ワシントン大学のプログラムをもとにした子どものための遺伝教育をおこなっているのです。
この教室が子どもたちに伝えようとしているものは、人はみな、きょうだいでも親子でも違う身体を持ってきてそれは無限に多様であるということ。そして、自分の遺伝子は唯一のもので自分は世界でたったひとつの存在だということ。
これから出生前診断がさらに進化し、普及していくことは必至です。そこで問われるのが「遺伝リテラシー」です。本当に遺伝子のことは、知れば知るほど、私たちひとりひとりのセットを異常と正常に分けることは可能なのかと考えざるを得ません。
年一回夏休みにおこなわれて今年で11回目だというこのクラスは、全国でもとても珍しい遺伝を教える命の教育です。
長崎大学のある浦上は原爆の爆心地でもあります。
町のいたるところに原爆の遺構があり、人々の祈りが刻まれた石碑がたくさんありました。
浦上では、長崎大学では授業中で教授は教壇で、学生は席についたまま、町中がふだんの生活をしていたその場でそのまま亡くなられたそうです。
原爆資料館、浦上天主堂も見学しました。長崎大学門柱の碑文をはじめ浦上の碑はどれも熱く迫ってくるものばかりで、60年後にふらりと訪れた私のようなよそ者にも町が永遠に忘れない日のことを雄弁に教えてくれました。
私はこの町で、身体を作る遺伝子の存在を実感することができ、またその身体のはかなさを感じました。このように始まった私の今度の本は、覚悟が必要なくらいの深みを持った何かに手を伸ばすものになると思います。 2013/09/01