元ちとせ「死んだ女の子」

夏は刻々とその顔を変える。7月の夏と8月の夏は大きく違う。8月の夏は、日本人にとって魂の季節だ。

日本人は酷暑の中、一年のうちでもっともよく祈る。古くからそもそもお盆というものがあり、そして敗戦後には原爆投下と終戦の記念日がそれに加わっている。

おとといの夜に放映されたテレビ朝日の番組で、元ちとせが出産後初めて出てきて歌った歌はもの凄かった。ピアノは坂本龍一。原爆ドームの前で歌われた「死んだ女の子」というその歌は、あの日炎に呑まれた7歳の女の子の声である。

やはり、出産という体験は女性の魂を変えるのだと思った。地の底から聞こえてくるような、今なお広島にいる女の子の魂が憑いたような歌声だった。それは聞く人を反戦の思いに駆らせるというより、それすら越え、何も考えられないほら穴の中へ落とした。

酷暑の中で、祈りの火が全国で焚かれる8月。今年の夏休みは、これから、奈良、京都へ行く。お盆を迎える火、送る火をたくさん見てきたい。古都の火を見に、西へ。 2005/08/07