金木犀の花が道に落ち始めました。今年の金木犀の季節には1つの偶然があって、思い出の年になりそうです。
そのうち読もうと本棚におきっぱなしにしていた『むかし卓袱台があったころ』という久世光彦さんのちくま文庫を手にとって読み始めたら、金木犀が幾度となく登場するのです。読み始めて翌日くらいだったか、ふと夜中に、わが家の庭の金木犀に白い雪のようなものがついているのを見つけて(夜、金木犀の花は白っぽく見えますね)、今年も金木犀の季節になったことを知りました。
この本は『室内』誌に掲載されたエッセイを集めたもので、久世さんが子ども時代に住んでいた日本家屋の描写が繰り返されます。カメラがなめとるような映像的表現で、久世さんは文学少年だったけれど、やっばり映像文学少年だったんだなと感じました。
阿佐ヶ谷にあったというその「薄明かり」のある空間で、金木犀の部屋で、自分がお産婆さんの手によってこの世に生まれたときのことを久世さんは繰り返し想像して楽しんでいたようです。その緊張や不安を。産声と共にそれが喜びに変わって家族が1人増えるという強い連帯感を。久世さんはともかく家や、家から感じる庭の光や草木が好きで、特にそこで起きる誕生そして死をいつも想像していたようです。
今年の金木犀の季節は、久世さんの文章の余韻と共にこの花と過ごしたのです。 2007/10/16