この数年、産後うつ、産後ケア、マタニティブルーに関連するニュースが激増。
私は30年前に初めての出産をして「母子ふたりぼっち」をマンションの10階で経験し「なんだ、これは。ノーマルな人間の生活ではない」と思ってこの仕事を始めた人間です。ですので、今さら感は、もう、たっぷりです。当時は「密室育児」という言葉がマスコミで作られた頃でした。そして、ちょっとだけ社会のに話題になり、ほどなく忘れ去られました。
これは、すでに少なく見積もっても2世代は経ている問題です。日本中の個人が見て見ぬふりをして、無視し続けて、お母さんだけが歯を食いしばって子どものためにこの産業・家族形態の変化による無理、無茶を耐えしのんできたのです。
お母さんも言いにくかったのは、やはり、こういうことを公言するのは子どもがかわいそうですからね。私も長女には、自分が小さかったときにお母さんは楽しくてしかたがない育児をしていたと思っていてもらいたいです。でも、やはり、その子も子どもが生まれたら、同じような悩みに直面しかねません。また、どんなことでも子どもについて思ったことに私は嘘は言いたくないので、私は著作や講演の中でそうした思いを繰り返し公言してきました。
ふつうに考えても、一日の大半を言葉も話せない人とだけいたら、ホルモン云々という前に、誰であってもおかしくなる可能性はたっぷりあるわけです。
でも、あまりにも遅いけれど、やっとあの時期の大変さがキャンペーンされるようになったのは本当によかった。ただ、このように世間が生まれたてのお母さんに注目してくださるなら、「あともう一声!」と思わずにはいられないことがあります。
それは、妊娠期と出産直後のケアの大切さです。
今、産後ケアを一生懸命にやっている助産師さんたちは、妊婦健診や分娩の現場には一種の諦念を持っている人が少なくないように感じます。産婦人科の人手不足や、産み場所減少から来る出産施設の混雑は深刻。空きベッドを出さないために、産科が単科病棟ではなくなる混合化が起きており、妊婦さんがターミナルケアの方と同じ病棟になるケースも珍しくありません。
助産院も、晩産化から分娩が激減していて、産後ケアが中心になるところが多いです。お産まわりから、助産師さんがどんどん減ってきている・・・
助産師さんの存在感が小さいお産から来る結果として、退院時、母乳の出が悪いお母さん、子育てが不慣れなお母さん、そんな中でスマホにかじりついてその中の情報に振り回されるお母さんが増えています。母乳は、全部母乳でなくてもある程度あげられれば、お母さんを安定させる効果もあってずいぶん助かるのですが・・・。そして、お産の時の対応にしても、あまりにも忙しい所では、ご両親が嬉しい温かい思い出を作りにくいです。
そうした状況を変えることこそ、本当は「根っこ」からの育児支援だと、助産の世界ではずっと考えられています(助産とは、医学が産後うつ、異常妊娠などの病理を扱うのに対し、ケアを中心に産む人のためになることを考える分野です)。
しかし、今の状況では、ケアがないことがあまりにも当たり前になり、ケアの不足が見えなくなっています。入院中〜退院後しばらくの時期に出産施設でほとんどケアがないお母さんが、もうぼろぼろになって、やっと地域の家庭訪問の日を迎えても、事態は深刻化していることが少なくないということは容易に想像されます。
出産には、異常妊娠に対応する産科学の他にケアが必要だという認識を広げるために、今年、私は助産が行き届いた妊娠、出産、産後を撮っていきます。それが、目に見えるように。
明後日、京都で開かれるシンポジウム「バースハピネスを考える〜母になるプロセスを支える」で5分程度のスライドショーとして年末から撮り貯めてきた写真を初公開します。 2016/02/26